【講演採録】「移民・難民から見た世界情勢」@日本記者クラブ
はじめに:世界情勢に巻き込まれた「当事者」として
ジャーナリストの村山祐介と申します。本日は「移民・難民から見た世界情勢」というテーマでお話しさせていただくのですが、私自身が今まさにその「当事者」として渦中にいます。「移民」としてアラブ首長国連邦のドバイに家族で住んでいるのですが、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃を受けて、家族で「避難民」として日本に一時帰国しています。子どもの卒業試験がキャンセルになってしまい、一体いつドバイへ帰れるのかも先が見えない。世界情勢が自分の身に降りかかってきている状況です。

実はこのテーマをいただいた時、途方に暮れたところもありました。今、移民・難民問題は各国の内政や国際情勢の主要テーマとなり、地域的にもヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、中東、アジアでいろいろなことが同時並行で起きているからです。一体何を話せばいいのかと悩みましたが、それだけ広いテーマ的・地域的な広がりの中に絡み合っていること自体が、この問題の現在地を象徴していると思います。今日は、取材者としての私自身が見た現場、聞いた話、そして感じたことを中心にお話しさせていただきます。
### 1. 増え続ける移民・難民と政治問題化
まず、世界でどのくらいの規模の人々が動いているのか。故郷を追われた人の数は日本の人口とほぼ同じ規模に達しています。しかも、その数は右肩上がりで増え続けており、2014年と比較すると倍にまでなっています。

移民についても、冷戦終結後から倍増しており、現在は億単位の人たちが国境を越えて移動しています。私はこうした人々が移動する「ルート」を一つの取材テーマにしていまして、ルートに沿って移民・難民の動きを追い、あるいはやってくる源流に入っていく。「なぜこの人たちは命がけで国境を越えるのか」という理由を探る取材をしています。

私がオランダやドバイに住んできたのも、人の動きをそれぞれの地域ごとに取材したいと考えたからです。朝日新聞在職中には、アメリカ大陸で「トランプの壁」に向かう人々の流れを追いました。フリーになってオランダのハーグに移り、欧州に向かう人の流れを取材しようとした矢先にウクライナ侵攻が始まり、その渦に巻き込まれました。第三部として中東・アフリカを取材するためにドバイへ移ったところ、イランへの攻撃が始まって今に至っています。いずれ日本を含めたアジアの取材をしたいと思っています。

### 2. 政治問題化のプロセス:ナラティブとスケープゴート
移民・難民問題は昔からありますが、この10年で明らかに「ステージ」が変わったと感じています。もはや付随的な問題ではなく、選挙の最重要争点の一つであり、国際問題の焦点になりました。それが断続的に続いている、いわば「ニューノーマル」の状態にあります。
ステージが変わる大きな転機となったのが、ヨーロッパにおける難民危機と、アメリカにおける「トランプの壁」でした。この二つはほぼ同時並行で起きましたが、政治問題化した経緯は真逆です。