イラン攻撃の「避難民」としてドバイを逃れて
飛行機が滑走路を走り始めた瞬間、「ジェイ・ホー!」という耳慣れない歓声とともに大きな拍手が沸き上がった。ヒンズー語で「万歳」を意味する言葉だ。インド系格安航空のムンバイ便だけあって、私たち家族以外の乗客はほとんどがインド系の顔立ちだった。
本当に飛ぶのか。ドローンが飛来したら離陸できないのではないか……。機体がわずかに動いただけで起きた喝采は、みな同じ不安を抱いていたことを意味していた。眼下のアラブ首長国連邦(UAE)東部フジャイラの夜空は、不規則に瞬くオレンジ色の光に染まっていた。ドローン迎撃時の破片が落下した石油ターミナルから、溶岩のような強い光を放つ巨大な炎が上がっていた。
イラン攻撃が始まって5日目となる3月4日の深夜、私は妻と子どもを連れて3人でドバイを脱出した。この1週間前までウクライナで取材していたイランの自爆型ドローンが、ドバイ上空をも飛ぶようになったためだ。ウクライナの人たちが口にした怯えを、私は心の芯で共有できてはいなかったことを思い知った。それは誰かではなく、かけがえのない自分の家族が次の瞬間には血を流し、命を奪われかねない空の下にいるという耐えがたい不安だった。
狙われた繁栄の象徴
「まさか」の連鎖が始まったのは、ドバイの自宅でウクライナの動画を編集していた2月28日午前11時24分に届いた速報メールだった。
「イスラエルがイランに攻撃、『米国も参加』と米複数メディア」
いつかはあり得ると思っていたが、外交交渉の最中に奇襲をかけるとは思いもよらなかった。テヘランに黒煙、カタールやクウェートで爆発音、UAEの首都アブダビでもミサイル迎撃、と刻々とニュースが更新され、戦禍に巻き込まれる地域が広がっていく。それでも、イランが反撃するなら米軍関連施設を狙うはずで、昨年の「12日間戦争」を含めて無傷だったドバイの、しかも住宅地は別だろうと思い、元々約束していた家族との外食に出かけた。
ボンッ、ボンッ、バンッ。かなり近くの北の方角から爆発音が聞こえ、屋外席にいた客が一斉に夜空を見上げた。上方だから迎撃音だったのだろう。その後も立て続けに十回以上聞こえ、緊急車両のサイレンが響いた。攻撃されるなら米海軍が寄港する南西方向の港のはず、との目算も外れ、何が狙われているのか分からない不気味さに胸騒ぎがした。

爆発音がした空を見上げるレストランの客と従業員=2月28日午後7時ごろ、ドバイ・マリーナ(写真はすべて村山祐介撮影)
夜が更けても爆発音はやまず、未明にはスマホから緊急警報が鳴った。ヤシの木の形に埋め立てた高級住宅地パーム・ジュメイラで高級ホテルが炎上して4人がけがをし、国際線旅客数で世界首位のドバイ国際空港も損傷して4人が負傷した。「7つ星」と称される最高級ホテル、ブルジュ・アル・アラブでも火の手が上がったと報じられた。軍関連施設だけではない。攻撃されているのは、ドバイそのものだったのだ。
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