【ルポ】ウクライナ「要塞ベルト」ドンバスの砦クラマトルスク 迫るドローンと割譲圧力
高台を越えると、黒煙が数十メートルの高さまでもうもうと立ち上がっていた。
ウクライナ東部ドネツク州スロビャンスク郊外。逡巡する私を横目に、運転手はミニバンのアクセルを踏み込んだ。地元軍政当局によるとこの日、250キロ級爆弾10発が着弾し、およそ50軒の民家や学校などが破壊されていた。

集落から黒煙が上がっていた=2月11日午前、ウクライナ東部スロビャンスク郊外(写真はすべて村山祐介撮影)
市街地をかすめるように通り過ぎた直後、運転手が今度は「あれっ?」と戸惑いの声を上げた。スマホの地図アプリで位置情報が止まったままなのだ。ロシア軍のドローンを攪乱するためにGPS信号が妨害されていた模様で、地図アプリは結局、街を出た夕方まで使い物にならなかった。
ドネツク州のスロビャンスクからクラマトルスク、コンスタンチノフカへ三日月形に連なる約50キロ区間は、「要塞ベルト」と呼ばれている。2014年にドンバス紛争が始まって以来、ウクライナ軍が10年以上かけて塹壕などを構築して要塞化してきたエリアだ。ロシア軍が州の大部分を占拠する中、ウクライナ軍にとっては東部戦線の「最後の砦」となってきた。
私はその中核都市クラマトルスクに向かっていた。きっかけは、ロイター通信が1月16日に配信した短い記事だった。
「支配地域からの軍撤退、反対が過半数」
キーウ国際社会学研究所(KIIS)の世論調査の結果として、ドンバスからの軍撤退に54%が反対したと伝えていた。ただ私には、撤退を容認する人が39%もいたことが驚きだった。プレスリリースによると、1月9日~14日に占領地域外に住む601人に電話で尋ねたところ、ドンバス撤退に「容易に同意できる」が8%、「困難な条件だが概ね受け入れられる」が31%に上っていた。
実際、キーウで市民に話を聞くと、戦争が4年の長きに及ぶ中、「平和が戻るなら、ドンバス撤退もやむを得ないと思う」と明かす人たちに何度も出会った。
ロシア軍が迫り、ウクライナ国内からも「諦め」の声が上がる中、最前線の地に生きる人たちは何を思うのか。生の声をどうしても聞きたかった。気温がマイナス17度まで下がった2月11日午前6時、私は北東部ハルキウから東に向かった。
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