【講演採録・後編】危険地取材の考え方と実践――勇気ではなくリスク判断を
「危険がある」前提で考える
現場取材の意義をお話しする中で、それでも、なぜ危険が伴う現場まで行くのか、どうやって取材しているのか、という疑問を抱いた方もいると思います。
まず、危険地取材では「リスクが存在する」ことが前提になります。リスクがゼロという状況はありません。そのうえで、どこにどのようなリスクがあり、それがどの程度なのかを評価する。次に、対策によって何がどこまで減らせるのかを見極める。それでもなお残るリスクと向き合って取材に行くのかどうかを判断することになります。
経営や防災、情報セキュリティなどで使われる「リスクマネジメント」の考え方と重なるのですが、大きく違う点もあります。通常のリスクマネジメントでは、有事に備えて危険を回避・低減することが基本です。しかし危険地取材では、ジャーナリスト自身が残るリスクと向き合いながら現場に入っていくことになります。

最前線近くの街に向かう道中。隣はフィクサー=2023年3月、ウクライナ南部ヘルソン郊外で(著作権はすべて村山祐介)
2023年3月、川を隔ててロシア軍と向き合うウクライナ南部ヘルソンに入ったときのことです。元は旅行ガイドで、侵攻後はメディアのフィクサー(通訳兼コーディネーター)として毎週のようにヘルソンに通っている女性に同行してもらいました。旅行ガイドとフィクサーにどんな違いがあるか尋ねたところ、こんな話をしてくれました。
「やることはほぼ同じね。でも違うのは、ガイドならリスクは避けるけど、フィクサーだとリスクと向き合わなきゃいけないところかしら」
思わずひざを打ちました。
「自発的意思」が前提
リスクと向き合う以上、取材に行くのか、やめるのかという「リスク判断」が決定的に重要になります。一度判断すれば終わりではなく、途中で計画を変更したり、中止して撤退することも含めて、状況に応じて判断し続ける必要があります。
まず、判断を下すのは誰なのでしょうか。
所属や契約しているメディアと協議するのは当然ですが、最終的にはジャーナリスト本人が「自発的意思」に基づいて判断することが不可欠です。
行かないことで人事評価が下がるのではないか、断ると契約が打ち切られるのではないか、番組が成立しなくなるのではないかーーそうした不安や外部からの有形無形の圧力は、判断をゆがめ、重大な結果につながる恐れがあります。
各国メディアや記者団体などが参加する国際ニュース安全協会(INSI)の安全規範もこの点を重視しており、「危険地への派遣は、自発的意思に基づくものでなければならない」と明記しています。さらに、「拒否したことによって、キャリア上の不利益を受けてはならない」「編集者や現場のジャーナリストは、取材を中止できる」とも記されています。

破壊された軍両車両で埋め尽くされていたブチャの「駅前通り」=2022年4月、ウクライナ北部ブチャ
リスク判断と問いの重さ
次に、どうやって危険地のリスクを判断するのでしょうか。
実はそんなに大げさなことではありません。みなさんも、日々の生活ですでに実践していることです。
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