【講演採録・前編】AI時代になぜ、あえて現場に行くのか@早稲田大・ICU大講義
はじめに
「AI時代になぜ、あえて現場に行くのか」という今日のテーマは、ジャーナリストとして私自身が日々突きつけられている問いでもあります。AIに尋ねれば瞬時に「答え」が出てくる時代です。とりわけ海外取材の場合は飛行機に乗り、通訳を雇い、車を借りる。そして戦時下の危険地であることも少なくありません。コストをかけ、リスクを取りながら、なぜ現場に行くのか自問しながら取材しています。
みなさんも将来、オンラインで多くのことができるのに、「なぜ時間と費用をかけて現場に行くのか」と問われる場面もあるかと思います。私の話をケーススタディとして、みなさん自身に置き換えながら考えていただければと思います。
では、なぜ現場に行くのか。私の場合は「問いへの答えを探しに行く」ためです。問いは「問題意識」と言い換えてもよいでしょう。難しい専門用語を使ったり、哲学的なものである必要はありません。素直な疑問や違和感を言葉にするだけで十分です。ウクライナ侵攻を例にお話しします。
現場に行く意味――問いへの答えを探す
2022年2月24日、ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まり、ウクライナからヨーロッパへ3週間で3百万人規模の避難民が逃れました。避難してきたのはどういう人たちなのか、が最初の問いでした。
これはウクライナとポーランドの国境の様子です。小さな子どもの手を引いた母親ばかりでした。18歳から60歳までの男性は原則、出国が禁じられたため、まず子どもを安全な場所に逃がそうと母子が国境に殺到したのです。
この子たちのまなざしがずっと印象に残っていて、本の表紙にもしました。オランダの避難先に1年後に再び会いに行ったところ、たどたどしい口調だった母親のリリアさんが英語を流ちょうに話していで驚きました。当時は空爆の恐怖で、急性の吃音症になっていたのだそうです。子どもたちがなぜあんな表情をしていたのかと尋ねると、車で送ってくれた前夫と国境で別れた際に大泣きしたばかりで、放心状態で国境を越えた直後だったことを知りました。

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- ブチャ――情報の空白と情報戦
- 空白を埋める事実
- 声なき声――SNSやAIには出てこない言葉
- なぜ逃げないのか――とどまる人たちの声
- 現場に行くことの意味――まとめ
- おわりに――「わかったふり」をやめる
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